非常に暑い日が続いているが、暦の上ではまもなく秋を迎える。秋といえば、「秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」という歌が思い浮かぶ。一つの解釈として、これは目に見えないものも見方を変えれば感じ取れる、という意味がある。若い頃、仕事が非常に忙しかった時期に、自分を可愛がってくれた上司と様々な会話を交わしたことを思い出す。ある日、その上司に「今、どんな花が見えるか」と問われ、何も答えられなかった私に対し「忙しいときこそ心に余裕を持たなければ、良い仕事はできない」と諭された。また「君は真正面から人を信じるが、物事は正面だけでなく、斜めや横からも見なければ本質は見えない」とも言われた。当時は漠然と聞き流していたが、今ではその言葉の真意がよく理解できる。「もうすぐ立春だ」と言われた時には、すぐに本屋に向かい、二十四節気を調べて覚えた。知識がないことを前提に話されるのではなく、期待を込めて語られているのだと感じ、何事にも積極的に取り組むようになった。業務においても、客先用に作成した操作マニュアルをコンパクトに折りたたんで準備したところ「困ったときに使うものは手間なく取り出せるように」と却下されたことがある。以後は折らずに持参するようになり、細部への配慮の大切さを学んだ。当時の楽しみはもっぱらお酒だけだったが、その上司の影響で多くの本を読むようになり、知見を深めることができた。今ではその方を人生の恩人と思っている。皆も仕事で忙しい日々を過ごしていると思うが、まもなく訪れる秋の気配を感じながら、趣味だけでなく読書にも親しんでみてはいかがだろうか。