先日、十数年前に作成された古いMIDIデータを再生しようとしたのだが、これが一筋縄ではいかなかった。今の音楽制作は、PC一台で完結するソフト音源が主流である。しかし、当時のデータは「外部のハードウェア音源」を鳴らす前提で作られており、今の便利なツールだけでは音色すらまともに再現できなかった。そこで役に立ったのが、もはや「化石」だと思っていた古い知識だった。たとえば、「コントロールチェンジ」による音色の微調整、「システムエクスクルーシブ」というメーカー独自の命令文の書き換え、そして現代ではほとんど意識しない「MIDIチャンネル」の厳密な割り振りなどである。これらは、今の音楽制作では表に出にくく、いわば「死んだ知識」だと思っていた。しかし、それらを思い出し、適用していくことで、当時の音が正確によみがえった。この経験から感じたのは、知識に「賞味期限」はないということだ。新しい技術や効率的なツールが登場すると、古いやり方は「非効率な無駄」として切り捨てられがちである。しかし、新しいシステムも結局は古い基礎の上に積み上げられた構造体にすぎない。トラブルが起きたとき、あるいはシステムを根本から最適化しようとしたときに必要になるのは、こうした「泥臭い基礎知識」や「枯れた技術」なのである。仕事においても、古いシステムの仕様を理解することは、一見するとタイパが悪いように見えるかもしれない。だが、それらは決して無駄なコストではなく、いざというときに自分を助けてくれる「長期保有の資産」になる。皆も、自分が持っている「古い知識」や「一見ニッチな経験」を、化石だと切り捨てずに大切にしてほしい。それが思わぬ場面で、現状を打破する鍵になるかもしれない。