アメリカの自動車メーカー、ゼネラルモーターズの開発部に届いた奇妙な苦情の話をご存じだろうか。その内容は「バニラアイスを買ったときだけ車のエンジンがかからない。おかしな話なのは承知している。返事は不要」というものだった。送り主自身も奇妙だと自覚していたが、受け取った会社側も「バニラ味でエンジンが?」と半信半疑だった。それでも開発部はエンジニアを現地に派遣し、実際にアイスを購入して検証することにした。すると驚くべきことに、バニラを買ったときだけ本当にエンジンがかからず、他の味では問題がなかった。エンジニアは日を改めて何度も調査を行い、訪れた時間や購入の流れを細かく記録した。そしてついに、ある違いに気付いた。バニラ味だけは店の都合で提供時間が極端に短く、買い物が早く終わってしまうのだ。そのため、エンジンを切った直後に再始動を試みることになり、ガソリンラインに気泡が生じて燃料の流れが止まる「パーコレーション」という現象が発生していたのである。この逸話は、目に見える現象が必ずしも答えではなく、どんなに不思議に見えても事実は事実であることを示す有名な例として語り継がれている。私が特に印象に残ったのは、「疑問に思いながらも現地にエンジニアを派遣した」という会社の姿勢だ。もし自分なら「そんなことはあるはずがない」と軽く受け流し、わざわざ現地調査までは行わなかったかもしれない。しかし、AIが登場し、専門技術者でなくても開発が可能な時代だからこそ、こうした親身な顧客対応こそが重要になるのではないかと感じる。そして業務を円滑に進めるためにも、私自身そうありたいと強く思う。
- 2025/09/05